すかんち初期の名曲「魅惑のYoung Love」がエンジェルの「That Magic Touch~痛快なる魔術~」のオマージュである事は誰もが知る事実だし、ROLLY自身が幾度となく「自身のルーツはエンジェルのギタリストのパンキー・メドウスにある」と、公言をしている。
※いきなり余談だが、96年発売のすかんちベスト作『HISTORIC GRAMMAR』の「魅惑のYoung Love (REMAKE VERSION)」は、QUEEN風アレンジが濃厚なスペシャルバージョンになっている。
そんな中、2019年末にエンジェルは20年ぶりの最新作『Risen~華麗なる復活~』をリリース。43年ぶりの来日公演も決定し、Queen+アダムランバート来日に心沸き立つロックファンに「エンジェルまでもっ!?」と話題を振りまいた。
かく言う私も、エンジェルと云う大物バンドの復活作を、心躍る思いで聴いていたのだが・・・正直なところを言うと(若干ながら)グッと、来なかったのだ。
フランク・ディミノのVoは、70年代当時と比べると張り艶が足りない(2020年で68歳になるのだから当たり前だが)
往年のグレッグ・ジェフリアのような大胆なキーボードアレンジが、聴こえてこない。
一聴しただけでは、肩透かしを食らった印象だったが、なんか、悔しかった。
「彼らの魅力は、こんなもんじゃないはずだ!」
「そもそも、エンジェルの魅力ってなんなんだろう?」
ってなことで、再考察スタート。
1st『Angel~天使の美学~』(1975)
すでに彼らの代名詞とも言える「Tower」で幕を開けるファースト。伸びやかなボーカル、抒情的なギターリフ、プログレッシブなキーボード、何より、バリー・ブラントのドラムがドライブしまくっていて、外見だけではなく演奏そのものが、高水準のハードロックバンドだと伺い知れる。
ファーストは70年代中期の米プログレ路線で、キーボード主体のスター・キャッスルのようなサウンドに似ている。
しかし「On & On」などは、後の“エンジェル節”とも言える、超キャッチーなサビメロと、ドライブするバンドサウンドのコラボが、既に開花している。
2nd『Helluva Band~華麗なる貴公子~』(1976)
2nd『Helluva Band~華麗なる貴公子~』でも、前作のプログレ・ハード路線を踏襲しており、8分を超える「The Fortune」などが目玉曲として挙げられている。
しかしキャッチーなリフが印象的な「Anyway You Want It」といった、次作から開花するポップ路線を予感させる楽曲が、しっかり存在感を出している。
※またまた余談だが、ROLLYは1997年に、T.Rex のトリビュート作に提供した「THE GROOVER」に「Anyway You Want It」のリフを織り交ぜ、さらにQueen風アレンジに料理してしまっている!
3rd『On Earth As It Is In Heaven~舞踏への誘い~』(1977)
そして、1977年に傑作の呼び声高い3rdアルバム『On Earth As It Is In Heaven~舞踏への誘い~』をリリース。「That Magic Touch~痛快なる魔術~」が収録されているのが本作だが、それ以外にも数々のポップハード名曲が生まれている。
屈指の名曲なのが、リリシズム溢れる「You’re Not Fooling Me(奪われし魂)」ではないだろうか。ダンダカ、ダンダカ、ダンダカ、ダンダカ~、というリズムと、哀愁溢れるサビメロ、フランク・ディミノの高音ボーカルの美しさは他の追随を許さない。
さらに「Telephone Exchange(魅惑のテレフォン・コール)」の、アルペジオからの天翔けるボーカル。そして恐ろしいほどキャッチーなサビ。Bostonの「宇宙の彼方へ(More Than A Feeling)」を凌ぐ破壊力を持っていると言っても過言ではない。
これらの曲のクレジットを見ると(Meadows,Giuffria,DiMino)となっている事から、ギター、キーボード、ボーカルの3人が、強力なソングライターチームとして稼働していた事がわかる。
そして、満を持して、1977年に来日公演を果たしたエンジェルだが、プロモーターの倒産で公演が途中で中止になってしまったという。
悲劇のバンドと、当時は喧伝されてしまった模様だ。
4th『White Hot~天使の反逆~』(1977)
来日公演の中止、オリジナルベーシストの脱退等を経ながらも、1977年に発売された4作目『White Hot~天使の反逆~』は、USでのチャートアクションが良く、完全にポップハードバンドとしてのアイデンティティを確立したサウンド群。
中でも、一曲目の「Don’t Leave Me Lonely」は、近年のリユニオンのLiveでも良く歌われている定番曲で、コール・アンド・レスポンスが最高に気持ちいい。
5th『Sinful~蘇った天使たち~』(1979)
79年の5作目は、もともと『Bat Publicity』なるタイトルでリリースされるはずだったが、大衆が求めるエンジェルのイメージを推したいレーベル側とのイザコザもあり、結局は『Sinful~蘇った天使たち~』とのタイトルでリリース。バンド自身は、自らのアイデンティティをさらに強め、アイドルイメージからの脱却を図りたかったのかもしれない。
そんな経緯からも今作が、エンジェル史上の最高作で、楽曲の粒の揃い方が半端ではない。
「Just Can’t Take It」は、カントリータッチのハードポップとして、永遠に聴いていられるポップネスだ。
「You Can’t Buy Love」は、実にバランスのとれたミドルテンポの楽曲で、サビ前の五月雨式ハーモニーはSWEETを彷彿とさせる、クイーン遺伝子ファンには超絶ストライクな楽曲だ。
「I’ll Bring The Whole World To Your Door(新しき世界)」は、エンジェル節とも言える、ジェフリアのポップなキーボードから、泣きのメロディ。キャッチーなギターリフなど、円熟のエンジェルサウンドの極みのような楽曲だ。
これだけの楽曲群を繰り出しながらも、USでのチャートのアクションも今ひとつ。様々な軋轢から、バンドは、ここで一度、解散してしまう。
75年の『天使の美学』~79年『蘇った天使たち』の黄金期のエンジェル・サウンドを聴いていて感じるのは、とにかく“横ノリ”が気持ちいいバンドだという事だ。
ディープパープル的な英国のスピードハードロックではなく、エアロスミス的な豪快な野獣サウンドでもなく、あくまでキャッチーなKISSのようなポップハードだという事。カサブランカレコードのレーベルメイトKISSの対抗馬として売り出されたエンジェル。Kissを凌ぐ、ポップハードのソングライティングの才能を秘めていた。
フックの多い、ポップなメロディ重視のサウンドが、彼らの真骨頂であり、その耳で、2019年の復活作を再度、聴きなおすと、ガラリと印象が変わった!
『Risen~華麗なる復活~』(2019)
3曲目の「Shot Of Your Love」などは、サビ前の銃口がファイアする効果音に導かれるサビのキャッチーさは往年のような魅力に溢れている。
14曲目の「Don’t Want You To Go」も、サビのキャッチーなメロは、横ノリが気持ちよすぎる、往年の輝きそのままだ。
そして、何よりも素晴らしいのは、1975年『天使の美学』の一曲目「The Tower」を、今作の最後に持ってきている所だ。
45年の時を跨いだ、この曲の始まりと終わり。
そんじょそこらのバンドで実現できる味わいでは、決してない。
近年のリユニオンライブでも「The Tower」を演奏している。
改めて彼らの残した楽曲群は、当時の評価やチャートアクション以上の実力がある。ただのアイドルバンドでも、ましてやクイーンのバッタモンでもなく、その恐ろしいまでにキャッチーな楽曲が、気持ち良くドライブしまくる最高のポップハードバンドなのだ。
今のエンジェルには、70年代の黄金期のソングライティングを担っていた、ジェフリアこそ参加していないものの、Voのフランク・ディミノと、Gtのパンキー・メドウスという主軸メンバー二人が、いきいきとプレイしている。
そのエンジェルが、なんと、43年ぶりに日本に来ようとしているわけだ。
しかし、1977年の悲劇の来日公演に続き、この2020年の来日もコロナ禍により、その公演が危ぶまれている。
何とも、数奇な運命を辿っているバンドではあるが、彼らの歴史に真の福音をもたらすべく、是非とも2020年9月の来日公演は成功してほしいと願うばかりだ。
43年ぶりの “痛快なる魔術” が聴ける日も近い・・・・!!?