“集大成” これほどまでに、この言葉がピタッとあてはまるステージがかつてあっただろうか?去る2023年12月1日(金)SPiRiTRiALにとっての始まりの地、豊島区大塚のMEETSにて、結成25周年を祝するバンド初のワンマンライブが行われた。
Vo/Bを務める伊藤威明(いとう たけあき)が高校生時代に始めたバンドがきっかけで1998年に結成されたSPiRiTRiAL。様々な変遷やメンバーチェンジを繰り返しながらも不断の前進と、不屈の魂を燃やし続け、四半世紀の間、自身の音楽的アイデンティティを表明し続けてきた。
HR/HMを中心にしたメロディアスなサウンドで根強いファンを獲得している彼らは、もっと大きな箱でのギグも可能だっただろう。しかし、あえて大塚の地を選んだのは自身の音楽キャリアのスタートの地に立って、25年間分の総括をし、今後の新たな展開への力強い一歩を記したい、ボーカル伊藤の強い決意の顕れでもあった。
この舞台設定に、並々ならぬ意味付けを感じ取った聴衆は、今日が特別な一夜になる事を固く信じ、開演を待っていた。
19時の開演と同時に「Overture」のSEがこだまする。この曲は、最新作『SPiRiTRiAL 2023 edition』の冒頭に収録された新たなインスト曲。彼らの代名詞ともいうべき曲「Anthem」が、マーチ風にアレンジされた曲調で、新章の始まりを高らかに告げた。
1曲目に披露されたのは「Divide The World」。打ち込みのビートに、重厚なギターリフが乗っていくサイバーパンクな楽曲だ。伊藤氏が敬愛するFENCE OF DEFENSEの影響が色濃く、ハイファイなロックサウンドは90年代のあの熱狂を呼び覚ましてくれる。2008年頃のバンド初期からある楽曲で『SPiRiTRiAL 2023 edition』では、サウンドエンジニアの益子貴宗氏による最新リミックスが施され、細部にわたる音像がクリアに聴こえるので要チェックだ。まさに百戦錬磨の挨拶代わりの一曲で、会場のテンションはいきなりレッドゾーンに突入した!
2曲目に披露されたのは「The Core」という楽曲。前曲のポップなビートから打って変わって、ギターの丸岡勝(まるおか まさる)のメタリックな演奏が印象的なHM楽曲だ。硬派なメタル楽曲に冒険心と新たな展開を感じさせてくれる。今後レコーディング予定との事でリリースが楽しみだ。
続いて、伊藤氏が高校生時代にバンドを始めるきっかけともなったバンドメイトUniQ氏がステージに登場。当時を振り返りながらUniQ氏のおかげでバンドができ、UniQ氏の脱退をきっかけに、伊藤氏自身の音楽的成長を促してくれた大恩人との事だった。であるならば、25年後の全国のSPiRiTRiALファンにとってもUniQ氏は大恩人たる存在に他ならない。
当時よく演奏していたアコースティックナンバーとして、Extremeの「More Than Words」が披露された。90年代の日本の洋楽好きの間でもブームとなった曲。精いっぱい背伸びをして海外の流行曲をカバーしていた多感な高校生は当時全国に沢山おり、そのようなムーブメントの中で自身の確固たるアイデンティティを築き上げた伊藤氏達の青春の一幕が伝わる甘酸っぱい一曲だった。
そして、UniQ氏とコラボで披露された3曲目が「1999」だ。バンド最初期からあるナンバーでは、まさにSPiRiTRiALの始まりの瞬間を時空を超えて観られたような気がして感動に打ち震えた。こちらも最新作『SPiRiTRiAL 2023 edition』でゴリゴリにパワーアップしたバージョンを聴くことが出来る。
4曲目に披露されたのは「Karma」というこちらも最新楽曲。正真正銘のプログレッシブメタル!といったサウンドは、ドリームシアターを彷彿とさせるサウンド。バチバチの変拍子を刻むドラム勝谷健人(かつやたけひと)の真骨頂といった楽曲で、こちらも今後レコーディングされる予定だという。楽しみで仕方がない。
続いて、二人目のゲストとしてキーボードプレイヤーのkai氏が登場。伊藤氏とkai氏は中学生時代のTMネットワーク同好会が縁で知り合い、その後SNSで再会を果たしたという。kai氏は現在、ボイトレ、ピアノ、ギター等の講師をしている才人だ(https://www.instagram.com/kai_keyboard/)。一緒に演奏した5曲目は「Sad Ride」。まさにメタル・ミーツ・TMネットワークといったサウンドの楽曲。kai氏ダイナミックなキーボードプレイで会場を大いに盛り上げてくれた。
・・ここまでは、ゲストも交えつつSPiRiTRiALの歩みを振り返りながら、最新作『SPiRiTRiAL 2023 edition』の楽曲を中心に展開されてくセットリスト。前半戦では、彼らのアイデンティティを確かめ合うような聴衆との空気感。貴重な時が流れているのを感じる。
続いては、丸岡氏の静謐なインストナンバー「夕凪」から連なるように、彼らの代名詞ともいえるポップヘヴィネスナンバー「Firefly」が披露された。重厚なイントロリフ、疾走するリズム、内省的で美しい日本語歌詞、SPiRiTRiALの美学が、これでもかと詰まった楽曲にて、前半戦の最高潮を迎えた。また、この日の伊藤氏の喉のコンディションは抜群で、伸びのあるボーカルやシャウトも、より艶やかに響いていた。
7曲目は『SPiRiTRiAL 2023 edition』から「Promises」を披露。壮大で大迫力の勝谷氏のドラミングが雄大で大陸的な響きをたもち、会場を包み込んでいく。丸岡氏のギタープレイ含め、キングクリムゾンを敬愛する諸氏は、何かを感じ取とれるナンバーだ。
8曲目もキングクリムゾンを感じさせる「Trail Of Trials」。このインストナンバーをもって『SPiRiTRiAL 2023 edition』からの第一幕が一区切りとなった。
前半戦の最後には2014年にリリースされた1stアルバム『Suite Zero』から3曲「Follow」、「We’re Not Over」、「Return To Tears」が披露された。丸岡氏加入後の最新SPiRiTRiALバージョンに生まれ変わった各楽曲は、どれもビルドアップされ、聴きごたえは抜群である。
中でも「Follow」のサビ “いつでも、どこでも” というメロディや歌詞のキャッチーさは、万人受けする要素満載。彼らがコアな音楽ファンにだけ愛されるのではない、大衆性を兼ね備えたバンドだという証拠ともいえる楽曲である。
・・・ここで、10分間の休憩をはさむのだが、この時点でもはや脳内のキャパはオーバーロードしてしまうほど、濃密すぎる内容となっていた。興奮のあまり、鼻血がいつ出てもおかしくない状況である。
後半戦、SPiRiTRiALのキャリアにとってエポックメイキングな人物、スーパーボーカリスト藤井重樹氏が登場した。藤井氏と伊藤氏は2013年頃より共に活動。その蜜月の結晶として藤井重樹×SPiRiTRiAL名義で『COUNT9』アルバムを2021年の夏、まさにコロナ禍の渦中にリリースし人々へ希望の灯を提示した。
同アルバムより、挨拶代わりの「Step By Step」を演奏。藤井重樹氏のハイトーンを兼ね備えたハードロック然としたシャウトが加わった事で、SPiRiTRiALが全く別のバンドとして闘魂注入されたような輝きが、会場を支配した。
続いて「Count 9」が演奏される。SPiRiTRiALという鉄壁のバッキングを得た藤井氏の歌声は、水を得た魚の如く、活き活きとスケール感を増している。藤井氏のハスキーなボーカルと、伊藤氏のウェットな声質のハーモニーが絶妙で、このコラボレーションが、改めて奇跡的なものだったという実感がひしひしと伝わってくる。
さらに『COUNT9』収録のキラーチューン「Dancin’ On The Edge」が披露された。
日本人ボーカリストとして最もLAメタルの世界を体現している藤井重樹氏と、ブリティッシュ系プログレの側面が強いSPiRiTRiAL。彼らのコラボレーションを例えるならば、グラハム・ボネットがアメリカンプログレの名バンド、ニュー・イングランドのメンバーと共に結成し、イングヴェイやスティーブ・ヴァイをも輩出したAlcatrazzのイメージがピタッと来てしまう。日本版Alcatrazzともいうべきこの二組のコラボレーションがこれからも継続される事を祈っている!
続いて、伊藤氏が2020年にSNSの交流がきっかけで参加した海外のプロジェクトPinnacle Pointの経緯が語られた。KANSAS直系のメロディアスハードグループのアルバム『SYMPHONY OF MIND』に、日本人を代表して参加し、MVにも出演するという信じられない出来事だったというが、海を隔てたメンバーとの音源のやり取りだけで一度もライブ演奏をしたことがないという。同アルバム中より「Weight Of The World」が、SPiRiTRiALバージョンとして披露された。このレアな演奏には、世界中のメロハーファンが歓喜したに違いない!
今宵のワンマンライブ16曲目は「Parallel」という新曲が披露された。こちらの楽曲もPinnacle Pointに触発されたようなメロディアス・ハードな楽曲になっていた。さらに『SPiRiTRiAL 2023 edition』収録の「Calling」へと続き、エンディングへ向けて一気にボルテージを上げていく。
続くMCでは、普段のライブではめったにしゃべらない丸岡氏と勝谷氏からの貴重な発言も。バンドの魂として継続して活動をし続けてきた伊藤氏への尊敬の念が語られると共に、SPiRiTRiALというグループに参加できている喜びが語られた。伊藤氏からも二人が不動のメンバーであるとの宣言があり、三位一体として麗しきバンド像がここに結実していると実感した。
そして、本編の最後には彼らの脊髄、生命線とも言えるべき名曲「Anthem」が披露された。この曲も2000年頃、キャリア初期に作られた楽曲との事で、この四半世紀大切に演奏してきた楽曲だ。ミドルテンポのシンフォニックな楽曲でサウンドも重厚でプログレッシブ。“不信も怖れも捨ててしまおう”という普遍のメッセージ。バンド初期の25年前の時点で既に、彼らのアイデンティティは確立されていたと言って良いだろう。曲のラストバースでの伊藤氏のシャウトには、25年間分の思いが込められており、地下のライブハウスの天井を突き破り、豊島区大塚の上空へ、さらには銀河系の遥か彼方まで、確実に届いていたに違いない。
25年間分の恐ろしいほどの熱量を宿したワンマンライブ。アンコールの2曲も、大変に素晴らしいものだった。
前半戦の二人のゲスト、UniQ氏とkai氏が再登場、SPiRiTRiALとの5名でFENCE OF DEFENSEの「Chain Reaction」が演奏された。“ここから始まる”という歌詞が入った楽曲。SPiRiTRiALは、まさに大塚の“ここから始まり”、新章も“ここから始まっていく”。また人生は“いつからどこからでも始めて良い”というメッセージにも感じられた。
そして、オーラスは、藤井重樹氏を再び擁して『COUNT9』版のアンセム、すべての夢追い人への力強い応援歌「Dreamers」が披露された。会場がこの曲を噛み締めながら、藤井氏と伊藤氏の絶妙なハーモニーとSPiRiTRiALの壮大な音楽世界に浸った幸せな数分間だった。
・・・以上、SPiRiTRiALの四半世紀25年間分を、ギュッと凝縮した3時間。あっという間に終わってしまったという印象。改めてSPiRiTRiALというバンドの高い技量とパッション、そして音楽的な懐の深さを堪能できたワンマンライブだった。
グレン・ヒューズをベースの神と崇め、FENCE OF DEFENSEを心の師として敬愛を隠さない伊藤氏、大陸的で雄大なドラミング、プログレッシブロックだけでは語る事の出来ないポップなリズム感を備えた勝谷氏、そして、ジーノ・ロートやウリ・ジョン・ロートを憑依させるバリバリの丸岡氏。
3人の異なる感性が融合し、類まれなるサウンドを作り続けるクリエイティブ集団というイメージがSPiRiTRiALには当てはまる。HR/HMファンはもとより、そのステレオタイプ化したイメージを敬遠してしまう音楽ファンにも作品を届ける事ができるコンテンポラリーな可能性を十分に宿している。
音楽業界から“ロマン”がなくなったのはいつ頃からだったろうか。
だが、しかし、SPiRiTRiALの音楽には “ロマン” がある!
芸術性とコンテンポラリーを携えたハイエンドなHR/HM。
この、未完の大器の可能性は、INFINITYなのである!!
25年間分の魂を昇華させ、“ここから新たに始まる” SPiRiTRiALの挑戦を、我らも見届けて行こう!!
2023.12.05
Queen遺伝子探究堂 Varuba
2023.12.1 MEETS Set List
≪本編≫
※Overture (SE)
Divide The World
The Core
1999 (with UniQ)
Karma
Sad Ride (with kai)
夕凪〜Firefly
Promises
Trail Of Trials
※The Gate (SE)
Follow
We’re Not Over
Return To Tears
休憩
※Unity(SE)
Step By Step (with Fujishige)
Count 9 (with Fujishige)
Dancin’ On The Edge (with Fujishige)
Weight Of The World(PINNACLE POINT)
Parallel
Calling
Anthem
≪アンコール≫
Chain Reaction (with UniQ and kai)(FENCE OF DEFENSE cover)
Dreamers (with Fujishige)
▼ツイキャス「SPiRiTRiAL 25th anniversary LIVE」アーカイブ配信は、2023年12月15日(金) 23:59 まで!
https://twitcasting.tv/otsukameets/shopcart/259102
▼各ディスクユニオン・Amazon販売ページ
『SPiRiTRiAL 2023 edition』
https://diskunion.net/metal/ct/detail/1008744140
『Suite Zero』
https://diskunion.net/metal/ct/detail/HMHR140708-504
『COUNT 9 』
https://diskunion.net/metal/ct/detail/HMHR210712-200
『SYMPHONY OF MIND』
https://diskunion.net/portal/ct/detail/HMHR200605-404