【I Believe in Robby Valentine!】最新作『Embrace The Unknown』に感じる30年分の煌きとイノセンスーー。

ロビー・ヴァレンタインの音楽から “あの煌めき” が失われたのは、いつ頃からだっただろうか?

『Robby Valentine』(91)『The Magic Infinity』(93)に収録されたイノセントなピュアネスが凝縮されたような、キラキラしたメロディアスハードには、多くのファンが心を躍らせた。

自身の漲る才能をすべてぶつけた傑作3rd『Valentine』(95)においても、畏敬の念を感じさせる神曲とファンの間では語り草になっている「God」も収録され、ゆるぎない彼のアイデンティティは、自身の世界的成功を信じて疑わない信念に満ち溢れていた。

ヴァレンシアとのVでの日本ツアー時の「God」(1999年)
「I Believe In Music」(1997年)

90年代後半から2000年代へと時代が移り、世界中の音楽シーンではヒップホップやオルタナティブロックが台頭。80年代風の煌びやかなAORや、メロディアスハードを得意とするアーティストはシーンの第一線から退かなくてはならない状況となった。

そんな中、ロビー・ヴァレンタインもアルバムを重ねる中で少しづつ作風を変え、よりダークで、よりインダストリアルなサウンドへと変化していった。軸となるQueen風味は活かしつつ、MUSEのようなヘヴィ・ロック的なサウンドを指向するようになった(無論それらのサウンドクオリティは孤高かつ完璧)。

2016年「Bizarro World」

90年代初頭にオランダと日本で大きく脚光を浴び、その後、世界での大きなディール獲得へと飛躍するかに見えたが、若干の足踏み状態が続き、一部のマニアックな “クイーン遺伝子” 好きにもてはやされる存在になっていったかのように感じた。


数枚の『The Queen Tribute』を発表したのち、通算10作目となるフルアルバム『The Alliance』(18)が発表された。前年2017年の来日公演を終えたばかりのロビー・ヴァレンタインだったので、充実した私生活も反映された力作に仕上がっており「あの煌めきが、また復活した!」と多くのファンが心躍らせた。半面『The Alliance』の中には、自身の持病やニューエイジ思想への傾倒なども含まれた複雑な内容もあった。

その後、2021年に日本国内盤として『Separate Worlds』(21)がリリースされた。こちらの内容はロビーがソロデビュー前に在籍したバンド1st Avenue時代の盟友ピーター・ストライクスがロビーの曲を歌った企画アルバム『Peter Strykes Sings Robby Valentine』(20)を、さらにロビー自身が歌ったモノという若干のとっつきにくさもあった。

※その『Peter Strykes Sings Robby Valentine』に収録された「Heading for Avalon」という楽曲は、ロビー特有の美意識とワルツ風のテンポが素晴らしい名曲で、初出はヴァレンシアとタッグを組んだVの『Valentine vs Valensia』(02)に収録された楽曲。『Separate Worlds』にも収録されていれば印象が大きく違ったかもしれない。

Valentine vs Valensia「Heading for Avalon」

また『Separate Worlds』では日本のレコード会社側が、SNSでロビー・ヴァレンタインへの質問を募るという企画を立ち上げたものの最後まで実行されず、プロモーション活動の杜撰さも目立った。さらに、ロビー自身が『Separate Worlds』の解説で書いていた通り「視力の低下があり暗譜しているクラシックの曲を忘れてしまう前に録音したい」といった内容に、日本のファンは心配の色を濃くしてしまった感もあった。


その後、ロビー・ヴァレンタインの自身のサイトでひっそりと出したカヴァーを中心にした企画アルバム『The Black Dog Album』(22)収録の「Stop The Rain」は「これぞ!ロビー・ヴァレンタイン!」と言いたくなるドラマティックでセンチメンタリズム溢れる名曲なので、ぜひ聴いてほしい。


そんなファンの期待と不安を背負いながらフルアルバムとしては12作目となる『Embrace The Unknown』が2023年10月21日にリリースされた(本国オランダでのCDと、配信のみ)。

プロモーションMV

内容としては、コロナ禍のロックダウン中に発表した「Break The Chain」「Roll Up Your Sleeves」というインダストリアル風な楽曲2曲が中心の内容になっている。

上記の楽曲はMVも含めメッセージ性も強めだが、力強いロビーのサウンドメイキングが嬉しい。またそれ以外の新曲に耳を傾けるとポジティブな空気に溢れた楽曲が多く、よりリラックスした環境で音楽に向き合っている彼の姿勢が伝わってくる。視力の低下がある中でこれだけのクオリティの楽曲を繰り出せるロビー・ヴァレンタインの才能に、いまだに畏怖の念を抱かずにはいられない。

また、クイーン・トリビュートをやりまくっている彼ならではのアプローチとして8曲目の「Shadowland」という曲は、フレディ・マーキュリーがエディ・ハウエルに提供した「The Man From Manhattan」がモチーフになっているような曲調だ。表題曲の「Embrace The Unknown」はロビー自身に与えられた過酷な運命に対峙した、胸に迫る自叙伝的ドラマティック名曲だ。本作『Embrace The Unknown』は、前々作『The Alliance』の延長線上に位置するモノであり、ロビー・ヴァレンタインの往年の煌めきをも内包した充実作と言える。


当然、日本の熱心なロビーのファンが待ち望むのは、ボートラ入りの国内盤CDの発売(ライナーノートはキャプテン和田氏を希望!)そして、2017年以来の来日公演の実現ではないだろうか?

また、近年ドイツにおいて、Violetという若手HRバンドが登場し、ロビー・ヴァレンタインからの影響をSNSなどで公言。2022年には『イリュージョンズ ~幻想美~』という国内盤CDもリリースし、なかなかのチャートアクションを示している。世界中で、80年代・90年代初頭の煌めいたメロディアスハードやシティ・ポップの再評価が進んでおり、ロビー・ヴァレンタイン再評価の機運も高まってきていると感じている。


日本のロビー・ヴァレンタインのファンは、90年代初頭に一緒に音楽を愛し、一緒に成長してきた。
ロビー・ヴァレンタインがどのような音楽的変遷を辿ろうと、多くの貴重な宝物のようなサウンドを共有してきた事実に変わりはない。

最新作『Embrace The Unknown』を皮切りに、ロビー・ヴァレンタインの更なる飛躍と活躍を祈ってやまない。

2023年10月22日
クイーン遺伝子探究堂 Varuba

Roll Up Your Sleeves
Break The Chain

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