2015年7月に杉瀬陽子の3rdアルバム『肖像』が発表された。
ふと手に取った本作。
当初はYUKI等の女性Jpopシンガーの系譜で捉えていたのだが、
聴きこむ中で、そのようなベクトルでは全く収まりきらない彼女の魅力にはまってしまった。
様々な過去のSSWや日本語ロックの情景やサウンドスケープを、フィーチャーしながら、
瑞々しい彼女の感性と、凛々しくも温かい歌声のフィルターを通す事で、
まったく新しい、とても映像的で文学的な作品を生み出す事に成功をしている。
懐かしけれど新しい。
切ないのに嬉しい。
そんな、杉瀬陽子の『肖像』を改めて、一曲づつレコメンドしてみよう。
諜報員の恋
マンドリンの音色がとにかく素敵で優雅な一曲目。
水玉のロングスカートを捲し上げて、ヒラヒラと踊るような楽しさがある。
昭和のモダンなオシャレさと、日常への愛を描くライティングはKinksの「ピクチャー・ブック」も思い出す。
是非、PVなどの映像作品としても見てみたい一曲だ。
マドロスの小瓶
小粋なラグタイムサウンドは、
上田正樹の浪速ブルース名盤『ぼちぼちいこか』を想起させる。
無頼な、大阪の片隅を思わすホンキートンク具合と、陽気で丁寧な歌声にほっこりとした気持ちにしてもらえる。
五月雨二鳥
温かい電子ピアノが、いかにもキリンジテイストであり、なおかつハイ・ラマズなども想起する、上品な耳当たりの音像が前2曲と打って変わって都会的。雨の日に似合う作品だ。
Dear Alessi
イギリスのSSW、Alessi’s Arkに捧げた一曲。スライドギターがちょっとブライアン・メイ風のオーケストレーション。
耳当たりは優しい。クイーンで言うと、「リロイ・ブラウン」などに近い手触りだ。
まほら
“口ぶえ吹いて帰ろう”と、一人帰り道に歌いながら、ちょっと涙を流しているような。無理して強がっているような、自然体でセンチメンタルな曲だ。
“竜田川”という固有名詞も、日本の情景を掻き立てる、とても抒情的で文学的な一曲である。
はっぴいえんどの「風をあつめて」のような、屈託のない日本的な情景との融合性を、ごく自然に表現している。
キャンディ
原田真二の「キャンディ」のカヴァーだ。
これはまた、一転して、ウッドベースがダーティなイメージながらも、ホンキートンクな見世物小屋感漂う、日本ロック的アプローチだ。
バンジョーの音色が、とても良いアクセントになっている。ふらりと町にやってきた楽団が演奏してくれそうな、それでいて怖さも含んだ子供心を掻き立てる一曲だ。
原田真二と言えば、彼女もリスペクトしているRollyが、最新作の『Rolly’S Rock Theater 』でも、「てぃーんずぶるーす」をグラムにカヴァーしている。
また、浅川マキのような世界観ものぞかせる。
朝に想う
こちらも「五月雨二鳥」同様、暖かな電子ピアノ音が、良いアクセントになっている。
ペース音も大きく、ポール・マッカートニーライクな曲に仕上がっている。
聴きこむ毎に味わいを見せる職人的なポップサウンドだ。
悲しみよ、愛を孕め
例えば、
“映画の主人公が、今まで気が付かなかった、身近で健気な存在に気が付いて、
でもその人が突然いなくなって、
失ったモノの大きさに今更気が付き、
必死に探し回る”
ようなシーンのバックに流れたら、なんて素敵なんだろう。と、思わせてくれるような名曲だ。
なんというか、切な嬉しい。そんな感覚に誘ってくれる。
ジャクソン・ブラウンの「Late For The Sky」級のせつな名曲だ。
刺繍
アルバムのエンドを飾るのに相応しい、おばあちゃんが、ロッキンチェアーで刺繍をしているような、ひだまりの中にいるような。
そんな、終焉の幸福を描いたような音像がとても、心地よい作品だ。
KINKSの「写しあった写真」のような味わいもある。
・・・以上、
一曲一曲、
一節一節、
一音一音、
とても大事に奏でている彼女の感性に包まれながら、
その世界観に浸るとき、
確実に癒されている僕がいる。
そう、確実に癒されているんだ。
しかも、ここに日本ロックの最前線まであるんだ。
癒されながらも、これまた、興奮している僕もいる。
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