この記事を書いてる2018年6月現在、アダム・ランバートをフロントに据えたQUEENリユニオン・ツアーに精を出しているギター・ゴッドのブライアン・メイ。彼が音楽界やロック界に残した功績は計り知れず、枚挙に暇はない。誰もが認めるロック・レジェンドのブライアンが、ケリー・エリスと共作でアルバム『Golden Days』を2017年にリリースされしている。
世界的ロックバンドQUEENのギタリストのフルレンジ・アルバムにもかかわらず、あまり日本国内では話題になっておらず、日本盤がリリースされていない。ケリー・エリスとの共作である事や、全体的にカヴァーが多めのリラックス作風である事を加味したとしても、日本国内の需要はもっとあると思われます。
ぜひ、未発表のボートラを入れて、改めて日本盤をリリースしてほしいという期待を込めつつ、全曲解説で本アルバムの魅力を掘り下げてみたい。
目次
Love In A Rainbow
ケリー・エリスの伸びやかなヴォーカルと、ブライアンの卓越したアレンジ感覚が融合した良曲だ。全体的にはレッド・スペシャルをひっこめて、アレンジ力で聴かせている感がある。シタールなども使った中近東的な音階はクイーンの「ムスターファ」も想起させる。アレンジャー、ブライアンが全面に出た一曲だ。
Roll With You
小気味よいロックチューンだ。ケリーもコブシを効かせてロックシンガー然と歌っている。レッドスペシャルも唸りをあげてくれてうれしい限り。ブライアンのソロ作に入っていてもおかしくない、ライブうけしそうな1曲。
Golden Days
こちらは、80年代にブライアンが本田美奈子に書き下ろした楽曲のセルフリメイクだ。日本の情景を想起させてくれる美しいメロディライン。Queenの「預言者の歌」でおもちゃの琴をつかったり、「手をとりあって」で日本語を入れたり、クイーン初期から日本びいきだったブライアンの一貫した日本リスペクトがこの曲にも顕れている。
It’s Gonna Be All Right (The Panic Attack Song)
この曲もブライアンらしい、ポジティブなロックチューンだ。メジャーキーを多用した、屈託のないポップソングに仕上がっておりケリー・エリスのパーソナルがとてもよく表現されている。のちに、2021年コロナ禍バージョン「Panic Attack 2021 (It’s Gonna Be All Right)」もリメイクされた。
Amazing Grace
言わずと知れた賛美歌の代表曲だが、クイーンの「ラブオブマイライフ」を彷彿とさせるアコースティックギターがなんとも嬉しい。公式に上げている動画が、ブライアンの大好きなハリネズミがモチーフになっているのが何とも微笑ましい。
One Voice
こちらも、ポピュラーな賛美歌のひとつだ。後半のレッド・スペシャルの盛り上がりが、まるでクイーン楽曲のようで「愛にすべてを」などにも通じる。レッドスペシャルの音色が当然マッチするに決まっている。
If I Loved You
こちらは、1958年にロジャース&ハマースタインが作曲したブロードウェイミュージカル『回転木馬』の中の一曲。ブライアン少年が聴いて育った思い出の一曲だろう。
Born Free
1966年に映画『野生のエルザ』のサウンドトラックでジョン・バリーが発表した楽曲。動物愛護をライフワークにしているブライアンの心情がたっぷりつまった壮大なアレンジ。
Parisienne Walkways
ギターゴッドの一人Gary Mooreの78年作『Back On The Streets』から名曲「Parisienne Walkways(パリの散歩道)」のカバー。本家に負けず劣らず、ブライアンもねちっこいギターを聴かせてくれている。
I Who Have Nothing
トム・ジョーンズの「アイ(愛の告白)」でヒットした楽曲のカヴァー。イタリアでの原曲は “Uno dei tanti”(カルロ・ドニーダ作曲)というカンツォーネが元ネタだ。
The Kissing Me Song
これまで、カヴァー曲が続いたが、4曲目以来のブライアンのオリジナル楽曲だ。こちらもメジャーコード中心のポップソング。ギターソロがクイーンの「ドントストップミーナウ」のようで、疾走感が感じられる。
Story Of A Heart
こちらの楽曲はベニー・アンダーソン(ABBA)が2009年に発表した曲のカヴァーだ。1975年に「ダンシングクイーン」と「ボヘミアンラプソディ」がヒットして、同時期に売れっ子グループになったQueenとABBAだが、ここに来て奇跡的な邂逅を見せている。
Can’t Help Falling In Love
こちらも、有名な楽曲「好きにならずにいられない」。エルヴィス・プレスリーが1961年に発表した代表的なバラード。近年ではUB40のカヴァーが有名で、1999年の洋楽コンピ『NOW1』に、この曲とクイーンの「伝説のチャンピオン」が収録されていたので、当時の洋楽ファンにはなじみ深い楽曲だ。
・・・以上、全体的な感想としては、ブライアン・メイの自叙伝的な様相を呈したアルバムといった印象だ。レッド・スペシャルは当然の活躍ぶりだが、アレンジャーとして、ケリーのヴォーカルを際立たせている。そして、古今のスタンダードナンバーのカバーが、走馬灯のように、ブライアンの人生を彩ってきたと感じる。
本アルバムはクイーンファンは、レッド・スペシャルの響きを聴けるだけでも感激でしかないのだが、70歳を越えた今のブライアンにしか作れない、なんとも温かみのある、奥行きのあるアルバムに仕上がっている。
是非、聴いてみて頂きたいし、国内盤もリリースしてほしい!
2018年6月
Queen遺伝子探究堂