たくましくも儚い娼婦のテーマ曲「アラバマ・ソング」に淫するおもひー。

クルト・ヴァイル(Kurt Weill)は、第二次世界大戦前の1920年代から活躍したドイツの作曲家だ。
出世作は劇作家ベルトルト・ブレヒトが書いた戯曲『三文オペラ』への劇伴などが有名。

ブレヒトが1930年に書いた戯曲『マハゴニー市の興亡』の中でヴァイルが作曲した「アラバマ・ソング」 (「Moon of Alabama (Whisky Bar)」)という楽曲がある。ヴァイルの妻で、女優のロッテ・レーニャが妖艶に歌った、退廃的で不思議な楽曲だ。

歌詞内容は、酔いどれた売春婦が “ウイスキーバーを教えてよ” とフラフラしながら歌う。

ここから一番近いウイスキー·バーへは
どう行けばいいか教えてほしい
理由は聞かないでほしい
もしも私達が次のウイスキー·バーを
見つけることができなければ
死ぬしかないんだから

ああアラバマの月よ
私達はさよならを言わなくてはいけない
懐かしい私達のママはいなくなってしまった
それでウイスキーが必要なんだ
わかってくれるよね

この社会の底辺を彷徨う、たくましくもあり、儚い彼女達のテーマソングを、第二次大戦後多くの先鋭的なミュージシャンがカヴァーしている。

ドアーズや、デビッド・ボウイのカバーが有名だが、イギリスやドイツ、日本においても退廃性やデカダニズムと言ったモダーンなセンスを身にまとったミュージシャン達がこぞってカバーした。

1977年にフレディ・マーキュリーに溺愛されたミュージカル俳優のピーター・ストレイカーが、ロイ・トーマス・ベイカーと、フレディのプロデュースでリリースしたカヴァー作もあり、これは絶品中の絶品だ。

珍品カヴァーとしては、元たまの柳原幼一郎が、1995年のソロアルバム『ドライブ・スルー・アメリカ』で独自の日本語歌詞を付けて歌っており、彼の音楽性の一端を垣間みる事が出来る。

2003年にはマリリン・マンソンも、ドアーズへのオマージュと言う形でカヴァーをしている。

1985年の好企画盤『Lost In The Stars: The Music Of Kurt Weill(クルト・ワイルの世界)』では、ラルフ・シュケットとリチャード・バトラーが、カヴァーしている。

・・・何とも魅力あふれる一曲として、長年多くのミュージシャンに支持されている「アラバマ・ソング」。

第二次世界大戦前のドイツの退廃性やデカダニズムは、1970年代にグラムロックやモダーンポップのRe・make/ Re・model の精神性に紐づいて多くのミュージシャンの探究心をくすぐった。
そんな退廃文化の中心的存在のクルト・ヴァイルの音楽は、先鋭的な芸術家や文芸家の達の間では、現在でも探究の対象ともなっている。

フレディ・マーキュリーや、デビッド・ボウイの標榜した世界に少しでも近づきたいと感じたら、ウィスキービンを片手に、繁華街の夜道をフラフラと歩きながら「アラバマ・ソング」を歌ってみるのも、また一興ではないだろうか。

2023.06.20
クイーン遺伝子探究堂 Varuba

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です