【書評】寸止めの美学。絶望と希望のつづれ織り—。 品田 遊(ダ・ヴィンチ恐山)の短編集『名称未設定ファイル』を読んで。

品田 遊(ダ・ヴィンチ恐山)の短編集『名称未設定ファイル』を読了。

現代的な感覚に満ち満ちた17個のリアルな創話は、不思議な“魔力”を宿している。

バーグハンバーグバーグの社員として、IT世界のあらゆる文化に精通している作者ならでわの、ITサブカル文芸だ。
それは、全く新しいジャンルであるはずなのに、懐かしさもあり、同時に滑稽さと恐ろしさを兼ね備えている。

板尾創路や松本人志のシュールな世界観を、文芸的に昇華させたような、先鋭的な読了感だ。

本作のキーワードを少し洗いだしてみると・・

○ツイッター
○チャット
○レコメンドECシステム
○カスタマーサポート
○ゴーストライター
○youtuber
○電子書籍
○発達障害
○知的障害
○ブログ自動生成
○AI
○仮想現実
○2ちゃんねる
○ハードSF

などが随所に現れては、急速に消える。

我々の日常を支配しているネットやIT、そして、これから我々を支配していくであろうAI。
これらに翻弄されている人間という動物の、哀れさ、滑稽さを、よりリアルにえぐり出す事に成功している。

創作というよりもドキュメンタリーを見ているような、そんな怖さもあり、
我々の日常をそのまま言語化するだけで、こんなにも滑稽な様相となるものかと、気恥ずかしささえ、覚えてしまう。

これを10年前の日本人が読んだら、立派なSFとして読んだのだろうが、今や全くの現代小説なわけだ。
最新鋭のテクノロジーと、それに翻弄される人間。テーマは不変だが、全てが日常そのものなのだ。

ひとつの話中で、Mossman社のレコメンドシステムで、ライフスタイル、飲食、住居、結婚相手まで、すべてを機械に決められている登場人物などは、そのまま楽天という会社と、それにどっぷり漬かっている我々へのアイロニーではなかろうか。

個人的には、ポイント欲しさにすべてをそこに投じていくユーザーの操られ感。
例えば、葬式をしただけポイントが貰えるような仕組みなどは、まさに、軽薄な換金システムに、人生の大切なライフステージまで、牛耳られている悔しさがあり、そのようなテーマも、描いて欲しかったと感じている。

以前、松本人志が全盛期に『寸止め海峡(仮)』というコントライブを行ったが、その寸止めの笑いに似た、ITあるあるのオンパレードは、
どれだけ狂気じみた世界に我々が暮らしているのか、という事を再認識させる。

手塚治虫の『火の鳥』や、短編集の『空気の底』を読んだ時の、絶望と希望のつづれ織りといった手触りさえもあり、また、何か温もりのようなモノも後味に残るから不思議だ。

これからの作品が本当に楽しみな作家のひとりだ。

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