『ROLLY’S ROCK CIRCUS』を100倍味わう為に~日本人Rock血肉化への道程とその証明~

ROLLYこと、寺西一雄は、さまざまなコードを分解して、脳内でマッシュアップ再生し、それをレコーディングできる特異な才能の持ち主である。すかんち時代には、数多くの古今の洋楽ヒットパレードやマニアックな歌謡曲の一節を混ぜ込みながら、独自のロックサウンドに組み立て直すという手法で多くのロックマニアに物議を醸し出させ続けた。

そんな彼の最新作『ROLLY’S ROCK CIRCUS~70年代の日本のロックがROLLYに与えた偉大なる影響とその影と光~』は、往年の日本ロックの地平を開いた先人たちへオマージュなのだが、その本質は、日本の歌謡曲と洋楽ロックの融合というテーマが、裏に潜んでいる。

洋楽からの影響を取り入れた、日本独自の“歌謡グラムポップロック”という、寺西少年の脳内でマッシュアップされていた多くのサウンドの結晶体が、このアルバムの醍醐味だ。
それはそのまま、外国の音楽であるロックという文化を、洋楽コンプレックスを乗り越えて、日本人が消化し、日本独自のモノとして血肉化をして来た道程であり、その証明でもある。
それは、Rollyの音楽的ライフワークであり、すかんち時代から一貫している姿勢である。

それでは、元曲を辿りつつ、『ROLLY’S ROCK CIRCUS』を100倍楽しみながら、一雄少年の脳内ワンダーランドへ突入を試みたい。


ビュンビュン/外道

ケレン味あふれるバンド、外道。その名のとおり、神社的な土着感を売りにしていた部分もあり、JAシーザーとも通じる部分を持つ。シーザーほど、難解な世界ではないので、今日ではガレージロックといったサウンドに分類されるだろう。しかしドメスティックさは半端ない。今回のRollyアルバムではより、原曲に忠実なアレンジ。

メイクアップ/フラワートラベリンバンド

ネイティブ発音のジョー山中の硬質なボーカルと、石間秀樹のインド音階的ギターが特徴の、内田裕也がしかけたバンド。こちらの原曲のライブ音源は、ミドルテンポに落としたハードロック。
個人的にだが、このあたりのニューロックの夜明けシリーズだと、羅生門の『インディアン死よりも赤を選ぶ』をオススメしておきたい。

タイムマシンにお願い/サディスティックミカバンド

英国の名門ロックレーベル・ハーベストからも発売され、日本のロックが本場のイギリスで名をあげた一枚。
今回のRollyアルバムのリードトラックのひとつとなっている。上記は1997年のライブ映像。

個人的には “ミンクをまとった娘がー” の部分を、The Who の「サマータイムブルース」でやってくれているのが、ツボである。

サムディ/フライドエッグ

「ドクター・シーゲルのフライド・エッグ・マシーン」より。
つのだ・高中・成毛の最強トリオ。現在の卍ユニットはこれに近いイメージなのだろう。
以外とポップなアレンジで、ゴダイゴ等とも共通するセンスがあるのではと感じる次第。
メロディアスなサムディを選曲したのは、やはりRollyならではのセンス。


ここまでの流れは、あくまで海外のロックサウンドを模倣の域を越えないモノだったが、日本人の感性をどうやって、ロックに反映させていくかという挑戦を、はっぴいえんど以降で行っていくのである。


花いちもんめ/はっぴいえんど

日本語ロックのパイオニアとして日本語の語感と情景を前面に出したはっぴいえんど。
このアトモスフィアはサニーデイサービスが受け継いだが、この曲のギターのフックやコードは、ソリッドな形でグリムロッカーズでも使われている。

空と雲/四人囃子

はっぴいえんど的な、日本文学的語感を保ちつつ、さらにプログレ色を増したバンド。Rollyは以前コレクターズの加藤ひさしとのユニットで四人囃子の「空飛ぶ円盤に弟が乗ったよ」をカヴァーしている。

たどりついたらいつも雨ふり/モップス

近年はドラマやグルメリポーターとして活躍していた鈴木ヒロミツがこんなにロックしてたなんて、知らなかった。今でいうと、サンボマスターのような感じかな?

やはり、この曲は、吉田拓郎の、泥臭く無頼な歌詞にある。

怒りをこめて/あんぜんバンド

安全バンドは、本当に知る人ぞしるバンドなんでしょう。ほとんど情報がないですね。Rollyさんがここで取り上げなければ、確実に時代の闇に消えているバンドです。日本語のロックを語る時に、宇宙的広がりまで含め、はずす事のできないバンド。
Rollyはこれまでも、何度か取り上げています。

気になるお前/近田春夫&ハルヲフォン

近田春夫&ハルヲフォンのアルバム『電撃的東京』は今回のROLLYアルバムのコンセプトにもっとも近い、歌謡曲を洋楽ロックの感覚ベースに乗せるというものだったのだろう。
こちらは元曲の元曲で、沢田研二のフリーライブ音源。

このライブ映像などは近田春夫&ハルヲフォンの当時のすさまじさを物語っている。当時の女性Voはアフリカンの血をひく、キャロン・ホーガン。
ロックではなくファンクだが、彼女のポテンシャルも再評価を受けて良い。

アラベスク/ムーンダンサー

日本のプログレキーボード奏者として有名な厚見麗。若かりし日の彼の耽美的な作品。
ムーンダンサーは、どちらかというとプログレよりも同時期の英国モダーンポップの影響を受けていると思う。スパークスやボイジャーなど。そしてこの感覚は国内では唯一無二。

シャンソン歌手としての一面も持つRolly氏。今回のアルバムではシャンソンボーカリストとして、シアトリカル風味全開で歌っている。ライザミネリ~フレディ・マーキュリーの流れ。

恋のマジックポーション/すかんち

自身のヒット曲を、セルフカヴァー。おそらく、後から足したセッションと思われるため、ドラムの松本淳氏が参加していないのがちょっと残念である。
小川文明氏とShima-changと一緒にやっているライブ映像が素晴らしい。

また、最近はダウンタウンの浜ちゃんの息子さんと演奏しているのも、意味深いですね。


・・・以上、『ROLLY’S ROCK CIRCUS』を俯瞰しつつ聴いてみると、日本人が海外のロックと格闘しながら、独自の文化に取り込むまでの歴史を、Rollyさんの半生で追体験する―
そんな、コンセプトで聴くと新たな楽しみ方ができるかもしれない。70年代からの奇天烈ロックンロールのアトモスフィア逆噴射を巻きおこしながら、円熟を迎えたRollyのパフォーマンスには、音楽の過去と未来と、全てが詰まっている。

そして、つむぎだすコードの奥にはパンドラの箱が置いてある。
それを空けて楽しむかどうかは、聴き手に委ねられているのである。
さあ、この道に続くのは―――。

Queen遺伝子探究堂
Varuba